5月19日 コレチキ
高校に入ったばかりのわたしは喧嘩ばかりしていた。といっても、わたしは痩せ型で腕っぷしが強くなかったため、相手は十二か十三歳ぐらいの男の子が多かった。
喧嘩以外にも、たくさんの悪事をやった。不法侵入、窃盗、器物破損、ドラッグ、コレクションチェキなどなど。
警察署に何度も呼び出されて、そのたびに警察官はわたしの頭を警棒で殴った。わたしはそれでも犯罪行為をやめなかった。人生にひどく退屈していて、何もしないよりはマシだったからだ。
様々な犯罪行為の中でも、わたしはコレクションチェキに夢中だった。マリファナを吸うよりもコレクションチェキのほうがハイになれた。路地で女を見かけるたびに、ナイフを突き付けて、無理やりコレクションチェキを書かせた。通称 “コレチェキ狩り” である。
最初の頃は、わたしはひとりでコレチェキ狩りを行っていたが、徐々に仲間が増えていった。いつの日からか、わたしたちのグループは地元でいちばんのコレチェキ狩り集団となっていた。わたしたちが街を歩くだけで女が逃げていく。とても気分がよかった。
もはや警察も敵ではなかった。わたしたちのグループは彼らの手に負えないほど大きくなりすぎていた。わたしたちは学校をサボり、真夜中になるまでコレクションチェキをやり続けた。
そんな中、仲間のレントンが死んだ。悲しい知らせだった。コレクションチェキをやりすぎたせいで、心拍数が異常なほど増え、心臓がプラスチック爆弾のように破裂したのだ。
仲間のみんなで彼の死体を埋めてやり、そのままコレチェキ狩りのグループは解散した。
わたしは死ぬのが怖くなり、その日からコレクションチェキ断ちをすることにした。
コレクションチェキを断つ副作用は想像以上に辛かった。まるで起きているのにずっと悪夢を見ているような気分。ベッドの上に仰向けでいると、天井にヒビが入り、崩れ落ちてくる幻覚におそわれる。わたしは繰り返し吐いた。
コレクションチェキの副作用を押さえるためには、コレクションチェキをやり続けないといけなかった。 心ではコレクションチェキを拒絶していても、体がコレクションチェキを欲してしまう。
結局のところ、わたしはコレクションチェキを再開した。我々はどうせ、いつか死ぬのだ。
……
五月十九日。本店七階では学園コスデーが開催されていた。
わたしは朝早くに目を覚まし、支度を整え、ビールを飲みながら電車で秋葉原へ向かった。
七階にはMちゃんがいた。彼女の制服姿がわたしに残念な学生時代を思い出させる。わたしは家に帰りたくなったが、コレクションチェキを貰うまでは帰れなかった。
わたしが座ってコレクションチェキを待っていると、七階のMちゃん(別人)やNちゃんがやってきてくれた。Nちゃんが言った。
「あんたの書いたブログを全部読んだわ。お母さんがコレクションチェキを置いて出ていったって本当なの? 」
「ブログに書いてあることは全て事実だよ」
「母親が今のあなたを見たら驚くでしょうね。だってあなた、ひどく醜い顔をしてるもの……コレクションチェキ中毒者の顔だわ!」
「さっさとMちゃんを連れてきてくれ!」
しばらく待つと、Mちゃんがわたしのテーブルに来た。
「ねえ、わたしはコレクションチェキを貰うために生まれてきたのかな」とわたしは言った。
「奇遇ね。あたしも同じことを考えてたわ。つまり、コレクションチェキを書くために生まれたのかなって」
「きみはコレクションチェキを書き続ける人生でいいの?」
「踊りながら朝を待つ生活よりはずっといいわ」
「気に入った」
わたしは店を出た。貰ったばかりのコレクションチェキを燃やし、海に行って灰を撒いた。
死んでいった仲間のために、わたしはこれからもコレクションチェキを貰い続ける。わたしはそう決めた。