4月27日 コレクションチェキ
わたしがまだ幼い頃、母親は哺乳瓶のミルクにこっそりとウイスキーを混ぜてわたしに飲ませた。ちょっとした悪戯だったらしいが、わたしの体は深刻な状況に追いやられている。アルコール依存症歴二十四年と六ヶ月。まともに現実を見られなくなり、未だに仕事なし。つねに昨日のことばかり考えて生きている。ハトのようなひどい暮らし。わたしが八歳になった頃、母親はキッチン・テーブルの上にコレクションチェキだけを残して消えてしまった。
四月二十七日。わたしは昼に起きて、鏡の前で顔を洗い、髭を剃り落とした。リビングに移動し、パン屋で買ったパンを食べ、新しいシャツに着替えて、外へ出た。
水曜日だった。コレクションチェキをもらいに行かないといけない。
電車に乗る前に駅前のスーパー・マーケットに立ち寄り、安いウイスキー・ボトルを一本買った。それを電車が停まるたびに数滴ずつ舐めた。秋葉原駅に着く頃には全て飲み干してしまった。
わたしはアキカル店でビールを頼んだ。名前の知らないメイドがわたしに向かって顔が赤いと言う。わたしはにやにやと微笑んでやり過ごした。
店はそれほど混んでいなかった。手の空いているメイドがわたしの元へやって来て、昼間からビールを飲んでいることにあれこれと言ってきた。こういう時、わたしは言い返す言葉が何も見つからない。わたしはずっと黙っていた。わたしが黙っていると、メイドたちは飽きて他の客の相手に回った。わたしはひとりでビールをゆっくりと楽しんだ。
アキカル店ではコレクションチェキを頼まなかった。コレクションチェキにはまだ早すぎると思った。わたしは完全に酔っ払った状態でないとコレクションチェキを楽しめない性質なのだ。
アキカル店を出て、コンビニでワインを買い、人の少ない路地で飲んだ。そして、本店四階へ向かった。
わたしを出迎えてくれたのはMちゃんだった。彼女は、これまでに百枚以上のコレクションチェキをわたしに渡してくれたことがある。わたしは彼女のコレクションチェキを頼んだ。
ビールを飲みながら待っていると、Mちゃんがやって来て、コレクションチェキを書いてくれた。
「コレクションチェキは、一枚につき、一つの別の世界が存在していると思うんだ」とわたしは言った。
「きっと、そうだわ」と彼女はペンを握りながら言う。
「きみはコレクションチェキを何のために書いている?」
「昨日の夢の続きを見るためよ」
「そういえば、この前、わたしは夢を見たんだ。夢の中でもきみはわたしにコレクションチェキを書いていたね!」
わたしたちは二人で大笑いをした。
コレクションチェキをもらった後、わたしは階段を上がり、七階へ入った。七階ではイースター・パーティが開催されていた。
そこでわたしはMちゃんのコレクションチェキを頼んだ。彼女からコレクションチェキをもらうのは三回目だった。
「今日はコレクションチェキのような一日だったよ」とわたしは言った。
「コレクションチェキって、まるで影のようにあたしたちの生活に着いてくるのよね」
そのとおりだった。コレクションチェキはまるで影のようにわたしたちの生活に着いてくる。
「人生はまるでそっくりそのままコレクションチェキだよ」
わたしがそう言うと、閉店のアナウンスが流れた。コレクションチェキをポケットにしまって店を出た。路地裏で吐いてると、猫が一匹、走り抜けて行った。わたしは電車で家に帰り、たっぷりと八時間眠った。