7月3日 進撃のコレチェキ
※6月25日ボウリング大会のブログ《後編》は2024年の冬に更新予定。
七月三日。わたしは日頃から肉を食べないようにしていた。かわいそうな牡牛や羊のためではなく、もっと別の理由からだった。とはいえ、なぜ肉を食べないのかと人に訊かれた場合には、わたしは小さい頃に近所の食肉加工場を見学したことがあり、それ以来、肉を食べるとその晩に悪夢を見てしまうようになったというもっともらしい嘘の話をするようにしている。なぜなら、本当の理由を白状したとしても、わたしの話を理解できる者はひとりぽっちもいないからだ。(だからこのブログでも、その理由を書かないつもりだ。)
ともかく、わたしは肉を食べなくて、代わりにチーズを食べている。普段口にしているのは、スーパー・マーケットで売っているものだが、しかし上質なイタリア産の味の濃いカマンベールだ。百歳の老人でさえ噛み切れるほど中がやわらかくて、美味い。
……と、わたしはメイド喫茶でメイドに話した。相手はM。彼女は、栄養士になるために職業訓練所へ通っていて、夜はメイド喫茶で生活費を稼いでいる。現在、目の前でコレチェキを書いてもらっている。会話の話題は全て彼女から始まっていた。わたしは彼女のペースにうまくのせられているという状態だ。
「どうりで、あなたとの会話には噛み応えがないワケね」
「何だって?」とわたしは言った。
「そのまんまの意味よ、とんちき。あたし、栄養の勉強をしてるのよ。だから、どんな食事をとってるかとかで、その人のことが大体わかっちゃうの。少なくとも、チーズなんか食べてる男に口説けるメイドはこの店にはいないわね」
「嘘はよせよ。きみのはったりだろ?」
彼女は肩をすくめ、言った。「モチ。ほんとよ」
わたしはふるえそうな手をジーンズの中へしまい、かちこちにこわばった顔の筋肉を弛めようと意識した。そして、全然動じていないと思わせるため、わざと低い声を出して言った。 「チーズの他にも、野菜や、果物もとる。もちろんフレンチ・フライもね」
Mはげらげらと笑った。「あなたって本当にバカなのね」
「アルコールもたくさん呑むからね」
彼女はまた笑った。その日は日曜日だった。陽気な日曜日だった……。