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5月8日 コレチェ

 

 五月八日午前八時――わたしは留置所のベッドの上で目を覚ました。公安警察がわたしを逮捕してから二日目の朝だった。留置所の部屋は朝になるとひどく冷え込む。わたしは薄手のシーツを体に巻き付けながら、立ち上がり、部屋のトイレで吐いた。しばらくベッドで休んでいると、看守がやって来てドアを開けた。

 

「おい、コレクションチェキの時間だ」

 

……

 

 二日前の夜、わたしは六十四年式のマーキュリーを走らせて中央通りを西へ向かっていた。ご帰宅を終え、家に帰ろうとしていたのだ。カー・ステレオからビートルズの『ペニー・レイン』が流れていた。窓を開けると、心地よい風がわたしの顔を撫でた。その夜、わたしはめずらしく気分がよかった……。

 

 大きな交差点を少し過ぎたところに警察官が二人立っていた。わたしが通り過ぎようとすると、警察官のひとりがわたしに車を停めるよう合図を送った。わたしは車を停車させた。

 

「いったい、何ですか?」

 

「指名手配犯がこの道を通ると通報があったんだ。すまないが、調べさせてもらう」と背の高い警察官の男が言った。

 

「わたしじゃないですよ」

 

「いいから、認定証を出しなさい」

 

 わたしは認定証を出した。

 

「おいお前、クリスタルじゃないか!」

 

「それが何です?」

 

「そのランクでよくそんな口が利けたものだな。調べが終わるまで車から降りて待っていやがれ!」

 

 わたしは言われたとおりにした。背の高い警察官の後ろにいたもうひとりの太った警察官がわたしの車を調べ始めた。

 

 太った警察官がわたしの車のトランクを開けた。そこにはスーツ・ケースが積んであった。

 

「そのスーツ・ケースは丁重に扱ってくれよ。コレクションチェキが入っているんだ」

 

 わたしがそう言うと、背の高い警察官の顔つきが変わった。鋭い目でわたしを睨みながら、反射的にわたしの両手に手錠をかけた。

 

「お前を逮捕する!」

 

「冗談はよしてくれ」

 

「黙れ! やはりお前だったんだな。闇のコレクションチェキを不当に所持している指名手配犯ってのは!」

 

 わたしは警察署へ連行された。警察はスーツ・ケースのコレクションチェキを全て押収した。ケースの中にはドンキ店のAちゃんや四階のMちゃん、そして受け取ったばかりでまだインクの乾いていない七階のMちゃんのコレクションチェキもあった。

 

 わたしは警察署内でひどい取り調べを受けた。彼らはわたしにコレクションチェキを受け取った時刻や経緯を詳しく説明するよう求めた。わたしが少しでも記憶を思い出すのに手こずると、彼らは警棒でわたしの頭を殴った。わたしが全てのコレクションチェキについて説明し終えると、警察はわたしを留置所へと連行した。

 

……

 

 わたしは看守に続いて留置所の廊下を歩いていた。看守は面会室の前で立ち止まると、わたしに部屋の中へ入るよう促した。わたしが面会室へ入ると、透明のガラス越しにスーツを着た三十代くらいの知らない女性が座っていた。

 

「私が今からあなたのコレクションチェキを書く。あなたが闇のコレクションチェキを受け取る素質があるかどうかテストするのよ」

 

 スーツの女性はそう言うと、きっちり二分に設定されたタイマーのボタンを押した。

 

 お互い無言のまま二分が過ぎて、コレクションチェキが完成した。

 

「シロね。あなたは闇のコレクションチェキを持つ素質のない、ただのクリスタルご主だったってことよ」

 

 こうして、わたしは留置所から解放された。わたしはマーキュリーを運転して秋葉原へ向かった。

 

 まずは本店七階に入った。

 

 Mちゃんがわたしのコレクションチェキを書きにやって来た。

 

「今日は虹色の虫の絵でも書こうかしら」とMちゃんが言う。

 

「だめだ。今日はあれを書いてくれないか?」

 

「だめよ。もし誰かに見つかっちゃったら、あたし、この店に居られなくなっちゃうもの」

 

「たのむよ。もう二日間もコレクションチェキをやってもらってないんだぜ?」

 

「わかったわよ!」

 

 Mちゃんは闇のコレクションチェキを書く素質があった。わたしにはそれを受け取る素質こそなかったが、しかし闇のコレクションチェキは、闇のコレクションチェキ・スリーブに入れることで、受け取りを可能とした。

 

 わたしは闇のコレクションチェキ・スリーブを愛車のシートの裏に隠し持っていた。馬鹿な警察たちはスーツ・ケースに気を取られ、車内を詳しく調べなかったのだ!

 

 わたしはMちゃんの闇のコレクションチェキを楽しんだ。

 

「あたし、わかるの。あなたはいずれ捕まるわ。もうこんな生活終わらせたほうがいいのよ」

 

「きみにわたしの気持は理解できないよ」

 

 わたしは本店四階へ向かった。

 

 Mちゃんがわたしを待っていた。彼女は子供の頃から闇のコレクションチェキを書いており、すでに何度も捕まったことがあるが、出所してもなお、闇のコレクションチェキをやめられずにいた。

 

 わたしはその日二枚目の闇のコレクションチェキを受け取った。

 

「アタシ、そろそろ闇のコレクションチェキをやめようと思ってンの。真っ当に生きてみようと思ってて……」

 

「ああ、そう」

 

「アタシが闇のコレクションチェキを書かなくなっても、あなたはアタシのコレクションチェキを貰ってくれる?」

 

「普通のコレクションチェキには興味がないよ」

 

 わたしは店を出て、ビールを飲みながら、車を運転して帰った。

 

 わたしもそろそろこんな生活をやめにしないといけない。言われなくてもわかっている。だが結局は今のところ、わたしにはコレクションチェキしかないのだ。